赤ちゃんの頭の形、大丈夫?
"斜頭症とSIDS予防の正しい理解を"
赤ちゃんの成長を見守る中で、「うちの子、頭の後ろが平らかも…」と心配になったことはありませんか?こうした状態は、一般的に「斜頭」と呼ばれ、医学的には「位置性頭蓋変形」または「変形性斜頭症」と呼んでいます。
位置的頭蓋変形には左右どちらかの後頭部が平らな斜頭症、後頭部の中央が平らで前後径が短縮した短頭症に分類されます。短頭症は稀な病態です。日常でよく使われる「絶壁頭」は後頭部中央の丸みが無い状態の総称です。
頭の形が整っていないと、将来的に大丈夫か不安になるのも当然です。
でも、まず知っておいてほしいのは、斜頭症そのものが脳の発達や健康に重大な悪影響を与えることはほとんどないということ。大半のケースは治療を必要としませんが、変形が目立つ重度の状態になってしまうと、ご家族が期待するまるいかたちまで自然には改善しにくいので生活上での工夫が必要です。
成長とともに骨がしっかりして頭蓋骨の尾根の継ぎ目がくっついてくると、形の変化が起こりにくくなってしまうため、早いうちから適切なケアを意識することが大切です。
斜頭症の原因と生活習慣との関係
赤ちゃんの頭はとても柔らかく、外からの圧力で簡単に形が変わります。
とくに、あおむけで長時間寝ていると、後頭部に圧が集中し、平らになりやすい傾向があります。
他にも、
・寝ている時間が長い
・同じ向きで寝る
・ベビーカーやバウンサーでの体勢が固定されがち
・胎内の位置や出産時の圧迫による先天的な要因
などが原因として知られています。こうした積み重ねが、頭の形に影響を与えるのです。
SIDS予防と絶壁頭 ― どちらも大切だからこそ知っておきたいこと
ここで、乳幼児突然死症候群(SIDS)との関係についても触れておく必要があります。
SIDSとは、健康な赤ちゃんが睡眠中などに突然亡くなってしまう原因不明の病態で、国内外で多くの事例が報告されています。
2023年に日本では48名の乳幼児がSIDSでなくなっていて、1歳未満児の死亡原因の5番目です。
このSIDSを予防するうえで、「あおむけ寝」が強く推奨されています。うつぶせ寝はたんにSIDSのリスクだけではなく、気道がふさがれやすく、窒息リスクが高まります。SIDSはうつぶせ寝、あおむけ寝のどちらの体勢でも起こっていますが、あおむけに寝かせたほうが発症率が低いことが研究でわかっています。
医学上の理由でうつぶせ寝を勧められている場合以外は、赤ちゃんの顔が見えるあおむけに寝かせましょう。睡眠中の窒息事故を防ぐ上でも有効です。
また、SIDSは冬期に多いためこども家庭庁は、毎年11月を乳幼児突然死症候群(SIDS)の対策強化月間と定め、SIDSに対する社会的関心を喚起するため、発症率を低くするポイントなどの重点的な普及啓発活動を実施しています。
あおむけ寝を続けることで斜頭症が生じるリスクもあるため、「どちらを優先すべきか」と悩むママも多いのではないでしょうか。
SIDS予防をしながら、頭の形も整えることは可能です。大切なのは、睡眠中はあおむけが基本ですがその中でも授乳毎に正面、右向き、左向きと頭の向きを入れ換えたり、覚醒時の時間帯で一定方向への頭への圧力を軽減する工夫を取り入れることです。
おうちでできる工夫 ― 無理なく毎日に取り入れるケア
まず取り入れやすいのが「タミータイム(うつぶせ時間)」です。これは赤ちゃんが起きているときにうつぶせの姿勢で過ごす時間を作るもので、後頭部への負担を和らげるだけでなく、首や背中の筋力も育まれます。
赤ちゃんはいつ眠ってしまってもおかしくないのでご両親のいずれかが必ず赤ちゃんの目を見ながら行う事が重要です。
タミータイムが難しい時は、親が抱っこをして過ごす時間を意識的に増やすことでも、頭部への圧を軽減することができます。
また、ベビーベッドの置き方やおもちゃの配置を工夫し、赤ちゃんが自然と左右のどちらにも首を向けるように促すことも有効です。
このように、日中の工夫と睡眠時の安全性のバランスを意識することで、絶壁頭とSIDSのどちらにも配慮した育児が可能になります。
いつ病院に相談したらいいの?
位置的頭蓋変形は多くの場合、重度でなければ成長とともに自然に整っていくものですが、以下のような場合には位置的頭蓋変形が重度であったり頭蓋縫合早期癒合症という手術を必要とする病気の場合があるため医師への相談を検討してください。
・頭の変形が目立ち、左右非対称が強いと感じるとき
・顔がいつも同じ方向に傾いている
・覚醒時のうつぶせや縦抱きを積極的に行っても生後6カ月を過ぎても改善が見られない
・発達の遅れや寝返りが極端に遅いと感じる
・耳の大きさやかたちに左右差があるなと感じた時
赤ちゃんの頭の形やSIDSのリスクは、ママやパパのちょっとした工夫で大きく変わります。必要以上に心配しすぎる必要はありませんが、赤ちゃんの今を大切にしながら、将来に向けたケアをしていくことが、家族みんなの安心につながります。
そして何より、ママが一人で悩まないことも大切です。気になることがあれば、遠慮せずに医師や地域の保健師に相談してください。
*頭蓋縫合早期癒合症
赤ちゃんや子供の頭蓋骨の縫合(骨のつなぎ目)が通常よりも早く癒合してしまう病気です。脳の成長を阻害するため神経発達の遅れの原因になります。治療は手術が必要になりますが手術の時期により方法は異なります。早期に発見されれば侵襲の少ない内視鏡的治療が可能です。
乳児血管腫は、いちごを半分に割ってはり付けたような見た目であることから、いちご状血管腫とも呼ばれていました。全身のさまざまな箇所に現れ、症状によっては健康面に何らかの問題を引き起こすことから、必要に応じて治療を行います。
概要
血管腫は血管の拡張や増殖によって生じる良性腫瘍です。出生時から大きさが変化しない「血管奇形」と、大きくなっていく「血管腫」があります。血管奇形が自然に消えないのに対して、血管腫は自然に消えることが特徴です。
乳児血管腫は、生後数日~数週間後に少しずつ現れる、盛り上がりのある赤あざです。大きさは数ミリから握りこぶしほどのものまでさまざまで、生後6~12ヶ月でピークに達し、5~10歳で自然に消えるといわれています。現れる箇所もお腹や頭部、目の周りなどさまざまで、部位によっては何らかのトラブルを引き起こします。
治療法
乳児血管腫は治療をしなくても自然に消失することが期待できるため、経過観察のみとするケースが多い病気です。しかし、自然に消失した後にしわやたるみが生じて将来的に見た目が気になることがあるため、治療を提案される場合があります。特に、かなり大きなものは、伸びた皮膚が縮みきらずに盛り上がりが残り、見た目に影響が及びます。
乳児血管腫の治療法は、レーザー治療と内服治療です。レーザー治療では、血液中のヘモグロビンがレーザーのエネルギーを吸収して、熱が発生することで血管の内壁が壊れて血管が閉塞し、乳児血管腫の改善へ導きます。生後2~3ヶ月以内に照射すると、ピーク時の大きさを小さく留める効果も期待できます。ただし、深さが1mm以上のものに対する効果は限定的です。
3ヶ月程度の間隔を空けて、5~15回程度の照射を行います。照射時にはゴムで弾かれたような痛みがあるため、痛みを抑える目的で貼り薬や塗り薬のほか、麻酔を行うことがあります。
内服治療では、血管腫の増殖を抑える効果が期待できる薬剤を使用します。ただし、乳児血管腫が健康に害を与えている場合や、急激に大きくなったり痕が残りやすいと判断されたりした場合に限り内服治療を行います。
レーザー治療と内服治療はいずれも保険適用の治療法です。
早期治療が必要な場合
乳児血管腫は、発生した部位によっては身体の機能や発達に悪影響を及ぼします。例えば、目の周りに現れると、盛り上がった赤あざによって視野が妨げられることがあります。また、喉にできた場合は気道をふさがれて呼吸困難に陥る可能性も否定できません。そのほか、肛門や尿道の出口にできた場合は、排泄障害につながることがあります。
健康面への害はないものの、頭皮に生じた大きな乳児血管腫は、治療を行わないと髪が生えてこなくなることがあるため、コンプレックスの原因になる可能性を踏まえると、治療した方がよいといえるでしょう。
なお、現在は乳児血管腫が小さくて機能や発達に影響を及ぼしていなかったとしても、将来的にトラブルにつながると判断された場合は、早期治療を行います。乳児血管腫に気づいた段階で診断を受けて、治療方針や治療を受けるタイミングなどについて医師と相談して決めることが大切です。
今回は、乳児血管腫の症状や治療法、早期治療が必要なケースについて解説しました。単なる赤あざではなく、機能や発達に悪影響が及ぶこともあるため、放置せずにまずは医師に相談しましょう。
赤ちゃんの健康を守るビタミンDの重要性
"くる病予防のために知っておきたいこと"
最近、赤ちゃんの「くる病」が増えていることをご存知でしょうか?
くる病は、主にビタミンDの不足によって引き起こされる病気で、特に成長期の子どもにとって深刻な影響を与える可能性があるため、赤ちゃんを育てるお母さんが正しい知識を持つことが大切です。
ビタミンDと骨の健康の関係要
ビタミンDは、カルシウムやリンの吸収を助ける重要な栄養素です。これらのミネラルは骨を強くするために不可欠で、ビタミンDが不足すると、赤ちゃんの骨が正常に成長しなくなります。
くる病の症状としては、肋骨にビーズ状の突起が現れたり、足がO脚やX脚になったり、頭蓋骨が柔らかくなるなどがあります。
くる病には大きく分けて二つのタイプがあります。
一つは「代謝性くる病」で、腎臓や肝臓の病気、あるいは遺伝的要因によって起こります。もう一つは「栄養性くる病」で、ビタミンDやカルシウムの摂取不足が原因です。
特に注意が必要なのは、この「栄養性くる病」に分類される母乳育児中の赤ちゃんに起こりやすいビタミンD欠乏性くる病です。
0~5カ月児の52%がビタビンD欠乏!?
日本小児医療保健協議会(四者協)は、3月24日、「乳児期のビタミンD欠乏の予防に関する提言」を発表しました。
発表の背景として、ビタミンD欠乏乳児の増加を指摘し、0~5カ月児の52%がビタミンD欠乏だったという報告があります。
(日本小児科学会雑誌 2018; 122: 1563-1571、J Nutr Sci Vitaminol 2018; 64: 99-105)
ビタミンDは食事からの摂取と日光による生成とともによって供給されます。このため提言では、小児科医が行うべき啓発・教育活動として、以下の6項目を提示しました。
1. 胎児のビタミンD充足度は母体の充足度と比例する。妊婦だけでなく、将来を見据えて小児期・青年期からビタミンDを充足させるような生活・食事習慣を確立する
2. 母乳のビタミンD含有量は少ないが、ビタミンD充足目的で母乳栄養が妨げられることがないようにする
3. 適度の外気浴、外遊びを行い、紫外線防止のため過度に日焼け止めを使用しない
4. 補完食(離乳食)の開始を遅らせず、適切な時期に開始する
5. ビタミンDだけでなく、カルシウム(Ca)も適正に摂取する
6. ビタミンDの欠乏要因となる生活・食事習慣の改善が困難な場合は、乳児用の天然型ビタミンDサプリメントの摂取を考慮する。過剰摂取リスクを回避するためにも、説明文書の用法・用量に従い、医師の指導の下に摂取することが望まれる
赤ちゃんがビタミンD不足になりやすい理由
新生児や乳児は特にビタミンD不足になりやすい環境にあります。まず、赤ちゃんの肌はとてもデリケートなため、紫外線から守る必要があり、結果的に日光浴によるビタミンD生成が制限されてしまいます。また、排他的な母乳育児を行っている場合、食事からビタミンDを十分に補給することができません。
実際、日本での別の調査によると、3歳未満の子どもにおけるビタミンD欠乏の発生率は10万人当たり5.4人と、他の年齢層に比べて高くなっています。2005年から2014年にかけての調査ではくる病と診断される症例も増加傾向にあり、これは生活スタイルの変化と関係があると考えられます。
ビタミンD不足を防ぐための対策
では、ビタミンD不足はどうしたら防げるのでしょうか?
まず、赤ちゃんに直接ビタミンDサプリメントを与える方法です。液体タイプのサプリメントが一般的で、生後数日から始めることが推奨されています。次に、母親がビタミンDサプリメントを摂取することで、母乳中のビタミンD濃度を少し上げる方法もあります。
ただし、この方法だけでは赤ちゃんの必要量を完全に満たすことは難しいため、直接補給と組み合わせることが望ましいでしょう。
また、適度な日光浴も有効です。ただし、赤ちゃんの肌は非常に敏感なので、直射日光を避け、朝や夕方の柔らかい日光を短時間浴びる程度に留めることが大切です。日焼け止めを使用する場合は、ビタミンD生成に必要な紫外線も遮断してしまう可能性があるため、医師と相談しながら適切な方法を見つける必要があります。
ビタミンDの過剰摂取に注意
ビタミンDは不足しても問題ですが、摂りすぎにも注意が必要です。ビタミンDは確かに骨の健康を促進し、カルシウムの吸収を助ける役割を果たしますが、過剰に摂取すると体内のカルシウムレベルが異常に高くなり、骨からカルシウムが過剰に流出することがあります。これにより、本来くる病を予防するはずのビタミンDが、骨の脆弱化という、くる病に似た症状を引き起こす可能性があるのです。
また、過剰摂取すると、血中のカルシウム濃度が高くなりすぎ(高カルシウム血症)、吐き気や嘔吐、腎臓の機能障害などを引き起こす可能性があります。
赤ちゃんの健康な成長のために
くる病は予防可能な病気です。母乳育児は赤ちゃんにとって多くの利点がありますが、ビタミンDは特別な配慮が必要です。WHOの推奨を参考にしながら、赤ちゃんの成長段階に合わせた適切なビタミンD補給を心がけましょう。
大切なのは、極端に走らず、バランスを考えることです。日光浴を完全に避けるのではなく適度に行い、サプリメントも必要に応じて適量を使用する。このような総合的なアプローチが、赤ちゃんの健やかな骨の成長を支えます。
赤ちゃんの健康は、毎日の小さな積み重ねで守られています。ビタミンDについて正しい知識を持ち、かかりつけの小児科医と相談しながら、わが子に合った方法を見つけてください。健やかな成長を願って、今日からできることから始めてみましょう。
※日本小児医療保健協議会(日本小児科学会、日本小児保健協会、日本小児期外科系関連学会協議会、日本小児科医会で構成)
赤ちゃんが最近、活気がなくいつも眠そうだったり、遊びたがらない、顔色が悪い、疲れやすいなど気になることはありませんか?そんな時には鉄欠乏性貧血症が疑われます。
赤ちゃんと「貧血」という言葉がなかなか結び付かない方もいるかもしれませんが、意外に知られていないことなので解説してみます。
赤ちゃんの貧血について
赤ちゃんの貧血も、基本的には大人の貧血と同じです。血液中の赤血球が不足し、体内に酸素を十分に運べなくなる状態を指します。ただ、赤ちゃんの成長や発達に深刻な影響を及ぼす可能性があるため、早期発見と適切な対応が大切です。
鉄欠乏性貧血とは?
赤ちゃんの貧血の中で最も多いのが「鉄欠乏性貧血」です。赤血球を作る材料となる鉄分が不足することで、酸素を運ぶ赤血球の数が減少してしまいます。出生時には赤ちゃんの体に胎児期から蓄えられていた鉄が十分にありますが、生後4~6カ月頃には使い果たしてしまいます。その後、母乳やミルク、離乳食から十分な鉄分を摂取しないと貧血が進行する可能性があります。
この貧血は、生後6カ月から1歳頃の急速な成長期に特に起こりやすく、離乳食の内容や鉄分の摂取量が不足することが主な原因となります。
また、早産児や低出生体重児は生まれつき体内の鉄の蓄えが少ないため、鉄欠乏性貧血になりやすい傾向があります。さらに、妊娠中にお母さんが鉄分不足だった場合、赤ちゃんにもその影響が及ぶ可能性があります。これらの要因が重なることで、赤ちゃんの体内に必要な鉄分が不足し、貧血の症状が現れるのです。
鉄欠乏性貧血の症状
鉄欠乏性貧血の症状は、軽度では分かりにくい場合もありますが、注意深く観察することでいくつかの兆候に気づくことができます。
赤ちゃんの顔色が青白く見えたり、元気がなく動きが少なくなることが一般的な症状です。周りの子と比べて、顕著に色白だなと思う時は、一度かかりつけのお医者さんに相談してみましょう。
ただ、鉄欠乏性貧血の場合は、徐々に貧血が進行し、症状として顔の血の気が少ないというくらいの症状しか出ないことも多いのです。かかりつけの先生と予防接種や健康診断の時などによくコミュニケーションをとりながら、お子さんの健康を守っていきましょう。
他にもある赤ちゃんの貧血
赤ちゃんに起こる貧血は鉄欠乏性貧血だけではありません。以下のような種類の貧血も考えられます。
1.溶血性貧血
赤血球が通常より早く破壊されることによって起こる貧血です。新生児溶血性疾患(母体と赤ちゃんの血液型の不一致)や、赤血球の形に異常がある遺伝性疾患が原因となることがあります。この場合、鉄欠乏性貧血と同じような兆候に加え、出生後早期から黄疸が強くみられます。血液型不一致の場合の黄疸は新生児時期のみで解決しますが、遺伝性疾患は長引く黄疸が特徴です。
2.未熟児貧血
早産や低出生体重児では、赤血球の生成能力が未熟であることや、体内の鉄分の蓄えが少ないことを背景に急激に身体が成長するため赤血球の産生が追い付かなくなり、貧血が起こりやすい傾向があります。
これらの貧血はそれぞれ異なる原因によって引き起こされますが、いずれも早期発見と適切な治療が重要です。
貧血の重症化によるリスク
貧血が重症化すると、赤ちゃんの成長や健康に深刻な影響を及ぼす可能性があります。貧血が重度に進むと、身体に十分酸素を運べるように心臓が普通よりたくさん働かなくてはならず、心臓に負担がかかり、そのうち心臓が疲れて心不全となることがあります。
貧血の予防と対処法
赤ちゃんの貧血を予防するためには、適切な栄養の摂取が重要です。特に離乳食が始まる時期には、鉄分を多く含む食品を意識的に取り入れることが大切です。例えば、レバー、赤身の魚、ほうれん草、大豆製品(豆腐や納豆)などを離乳食に加えましょう。また、鉄の吸収を助けるビタミンCを含む野菜や果物を一緒に摂取することで、より効果的に鉄分を補えます。
母乳のみで育てている場合には、鉄分を含む離乳食を意識的に取り入れることも有効です。また、早産児や低出生体重児などリスクが高い赤ちゃんについては、小児科医の診察を受けることで、適切なサポートが受けられます。
貧血が疑われる場合には、医師に相談し、必要に応じて血液検査を行いましょう。場合によっては鉄剤の処方や栄養指導が行われます。
鉄分を強化した離乳期用のミルクも販売されているので、それを利用するのも一つの方法です。
お母さんへのメッセージ
赤ちゃんの貧血は、適切な対応を行えば改善が期待できる病気です。普段の生活で赤ちゃんの様子をよく観察し、元気がない、顔色が悪い、食欲が落ちているなどの兆候に気づいたら、早めに小児科医に相談してください。赤ちゃんが健やかに成長するためには、毎日の食事や栄養に気を配ることが大切です。
小児の突然死やSIDS(乳幼児突然死症候群)は、親御さんにとって計り知れない悲しみをもたらす深刻な問題です。その原因は多岐にわたり、未だ解明されていない部分も多く残されています。しかし、近年、遺伝子解析などの研究も急速に進展し、小児の突然死と神経疾患との関係が明らかになりつつあります。最近までわかっていることを中心に研究の現状、そして将来の治療への展望について簡単にまとめました。
突然死を招く小児神経疾患
小児の突然死に関係すると思われる神経疾患は、多岐にわたります。ちなみに神経疾患とは、脳や脊髄、神経などがいくつかの原因で障害される病気で、体の多くの機能を制御しているため、その症状はさまざまです。その中でも特に小児の突然死との関係性や類似性が推察されるものを上げています。
てんかんおよびてんかん関連突然死
てんかんは、脳の神経細胞の過剰な興奮によって引き起こされる発作を繰り返す疾患です。SUDEPは、てんかん患者が発作に関連して予期せず突然死する現象で、そのメカニズムは完全には解明されていませんが、てんかんの発作に伴う呼吸循環障害が関与していると考えられています。
チャネルパチー(チャネル異常症)
イオンチャネルは、細胞の膜に存在する特殊なタンパク質で、ナトリウムやカリウム、カルシウムなどのイオン(電気を帯びた粒子)が出入りするための通り道です。このイオンの流れによって、細胞は電気信号を伝えたり、働きを調節したりします。
特に、神経や心臓の細胞にとって、イオンチャネルはとても重要です。たとえば、脳の神経細胞は電気信号を使って情報をやりとりしていますが、その電気信号の発生と伝達にはイオンチャネルが欠かせません。
チャネルパチーはこのイオンチャネルの遺伝子変異によって引き起こされる疾患群です。例えばSCN1Aという遺伝子に変異があると乳児期に発症する重症のてんかんの一つである「ドラベ症候群」を発症する可能性があります。
中枢神経系の構造的異常
先天的に脳の発達異常や構造的異常、脳奇形なども、突然死の原因となることがあります。
心肺中枢の機能異常
延髄や脳幹の機能異常は、呼吸や循環の調節に重要な役割を果たしており、これらの領域の異常は、SIDSの原因となる場合があります。
代謝性疾患と神経症状
細胞の中にあるミトコンドリアという小さな器官の働きがうまくいかなくなることで起こるミトコンドリア病や脂肪酸代謝異常症などの代謝性疾患も、神経の機能異常を伴い、突然死を引き起こすことがあります。
感染性脳症や髄膜炎
急性脳症や髄膜炎などの感染性疾患も、重篤な場合には突然死に至ることがあります。
神経筋疾患
デュシェンヌ型筋ジストロフィーなどの神経筋疾患も、呼吸不全などを引き起こし、突然死の原因となることがあります。
以上のような神経疾患の原因や発症のプロセスなどが次第に解明されてきています。それには近年の研究技術の進歩が大きく関係しています。
研究はマクロからミクロ、DNAからRNAへ
従来の解剖学的な研究に加え、分子遺伝学的レベルの解析が進んでいます。私たちの体のすべての細胞には、DNA(デオキシリボ核酸)という遺伝情報が含まれており、これが設計図となってタンパク質を作り、体の機能を調整しています。 しかし、遺伝子に異常(突然変異など)があると、正常なタンパク質が作れなくなり、病気の原因になることがあります。
こうした遺伝子の異常を細かく調べることで、病気のメカニズムを解明し、診断や治療のための情報を得ることができる可能性があります。さらには遺伝情報を持つDNAだけでなく、遺伝情報を伝えたり、タンパク質を作るために必要な(リボ核酸)の研究も盛んに行われています。特に、2024年のノーベル賞でも話題となったマイクロRNAと呼ばれる小さなRNA分子の働きに関する詳細な動きが解明されつつあり、てんかんなどの神経疾患や突然死との関連が示唆されています。
こうした研究の進展は、将来の治療や予防に大きな可能性をもたらしています。
遺伝子解析の結果に基づいて、個々の患者さんに最適な治療法を選択する個別化医療が期待されています。
また、病態の解明が進むことで、遺伝子治療や再生医療などの革新的な技術によって、難治性の神経疾患の治療や新たな治療法の開発も期待できます。
さらにはリスクの高い患者さんを早期に発見し、適切な予防策を講じることで、突然死のリスクを減らすことができる可能性があります。
脳バンクによる取り組み
とはいえ、小児の突然死に関する研究を進める上で、亡くなったお子さんの脳を含む関連臓器の提供は非常に重要です。これらの貴重な検体は、病態の解明や新たな治療法の開発に役立てられます。日本でも、脳バンクなどの取り組みが進められており、アルツハイマー病やパーキンソン病、自閉症、統合失調症、てんかんなどの研究に活用されています。
小児の突然死という深刻な問題に立ち向かうためには、研究者だけでなく、医療関係者、患者さん、ご家族など、社会全体での協力が不可欠です。All Japanでの研究プロジェクトを推進し、知識や情報を共有することで、より効果的な対策を講じることができます。
乳幼児突然死症候群(SIDS)は、多くの謎に包まれた現象ですが、研究の進展とともに、その原因やメカニズムが徐々に明らかになりつつあります。
赤ちゃんはどんなストレスを感じているの? 知っておくだけでケアの質が段違い
大人のストレスは何となく自分でも理解できますが、赤ちゃんは常日頃どんなストレスを感じているのでしょうか? 赤ちゃんのストレスの原因や対処方法を理解していれば、より良いケアができるのでないだろうか。こんなことを考えたことはないでしょうか?
赤ちゃんはこんな時にストレスを感じている
まずは赤ちゃんがどんな時にストレスを感じているかをまとめてみました。
日常的に納得できるものから意外に気が付かないものまでたくさんあります。
生理的な不快感
お腹が空いている:赤ちゃんにとって、空腹は非常に強いストレス源です。
眠いのに眠れない:環境が騒がしい、明るい、体が不快など、睡眠が妨げられることもストレスになります。
おむつが汚れている:湿ったり汚れたりしている状態は不快感を引き起こします。
環境の変化
温度や湿度:寒すぎたり暑すぎたりする環境は赤ちゃんにとってストレスです。
騒音や過剰な刺激:大きな音、強い光、急激な動きなどは赤ちゃんを驚かせ、不安感を与えます。
新しい場所や人:見知らぬ環境や人々と接するとき、赤ちゃんは不安や緊張を感じることがあります。
人間関係のストレス
親や養育者との分離:お母さんや主要な養育者と離れるとき、赤ちゃんは強いストレスを感じます。
一貫性のない対応:例えば、あるときは泣いてもすぐに抱っこされ、別のときは無視されるなど、対応が一定でないとストレスを感じます。
身体的な痛みや不快感
体調不良:風邪やお腹の張り、歯が生えるときの痛み(歯ぐずり)などはストレスの一因です。
抱っこや姿勢:不自然な姿勢や抱っこされるときの圧迫感も不快感を与える場合があります。
感情的なストレス
親のストレスを感じ取る:赤ちゃんは親や周囲の人の感情に非常に敏感で、親がストレスを抱えていると、それを感じ取って不安になることがあります。
自己表現ができない:自分の要求や感情を言葉で伝えられないこと自体が、赤ちゃんにとってストレスです。
どんなことを意識して赤ちゃんの環境を整えてあげればいいか
発達の初期にあたる赤ちゃんのストレスに対する対処のレパートリーはごく限られています。なかなかはっきりしたストレスのサインを出すことができない場合が少なくありません。そのためにはなるべく赤ちゃんがストレスを感じないような環境や関係を作っていくことが大切です。
スキンシップを強化する
赤ちゃんは親の体温や心音を感じることで安心します。特に不安を感じているときは、しっかり抱きしめるだけで気持ちが落ち着きます。抱っこやおんぶをしてみてください。また、手足を優しくさすったり、腹部を時計回りに撫でるなどベビーマッサージもリラックスさせる効果があります。
音や明るさ、温度や湿度を調整、五感の刺激を大切に
赤ちゃんは騒がしい環境では眠りにくく、不安を感じやすくなります。部屋の音量を落とし、クラシック音楽や必要に応じて白いノイズ(ホワイトノイズ)を使うと良いでしょう。気持ちを落ち着かせる効果があります。最近はホワイトノイズのスマホアプリなどもあります。
また、夜は照明を暗くし、昼間は適度な明るさを保つことで、昼夜のリズムが整いやすくなります。さらに部屋を快適な室温(20~24℃)と湿度(40~60%)を保つことで、赤ちゃんの快眠を促します。触覚も大切です。赤ちゃんにいろいろな素材を触わらせることで好奇心が働き感覚が刺激され、脳の発達が促されます。ただし興味を示さなかったり嫌がるときには無理に押し付けないでください。
規則的な生活リズムを作ってあげる
規則的な生活パターンは赤ちゃんの安心感につながります。毎日同じ時間にお風呂に入れたり、寝る前に同じ音楽や絵本の読み聞かせを行うことで、赤ちゃんは「もうすぐ寝る時間だ」と理解するようになります。日中は積極的に体を動かす時間を設けてあげると、夜にぐっすり眠ることができます。
安定した授乳と食事時間を作る
お腹が空いていると赤ちゃんは機嫌が悪くなります。母乳やミルクのタイミングや授乳間隔を一定にすることで、赤ちゃんの不安が減ります。離乳食が始まったら、明るい雰囲気の中で食事を与えると、赤ちゃんもリラックスして食べられます。何より食事を楽しむことのできる環境づくりを考えましょう。
不安を和らげる工夫
赤ちゃんにはいくつかのお気に入りのおもちゃやアイテムがあるはずです。おしゃぶりやお気に入りのタオル、ぬいぐるみなどの「安心アイテム」をいつも周りにそろえてあげると安心につながります。外出時に持っていける「安心アイテム」があれば、お出かけの不安が減り、より気分転換がうまくいくはずです。
赤ちゃんのリラックスはお母さんや家族のリラックスから
最後に赤ちゃんにとっても大きなストレスとなりうるご両親や家族との関係性の中で生じるストレスについて少し考えてみたいと思います。特にお母さんとの間で起こる様々な感情や関係性の振幅は、時として赤ちゃんにとって大きなストレスになります。
例えばいつもにこやかに自分を見ているお母さんがあるとき無表情な顔で見ただけでも赤ちゃんにとってはストレスになってしまいます。お母さんが赤ちゃんの顔を見るとき、笑い返したり声をかけたりするのが普通です。当然赤ちゃんはお母さんのそうした態度を期待しています。ところがお母さんが無表情な顔で自分を見た時に、自分の期待を裏切られ拒否されたと感じてしまいます。さらにはお母さん自体のストレスの程度まで敏感に察知します。
赤ちゃんのメンタルヘルスは、お母さんのメンタルヘルス、お父さんのメンタルヘルスと非常に密接に関係して連動しており、家族のメンタルヘルスの中心にはお母さんがいると場合が多いと報告されています。
「Parent and Child Stress and Symptoms: An Integrative Analysis」(1989「Developmental Psychology」)
育児は体力的にも精神的にも負担が大きいものです。母親が自分自身のメンタルケアに取り組むことで、育児の疲労感や不安が軽減され、より穏やかな気持ちで赤ちゃんと向き合えます。母親のメンタルケアを具体的に実践するためには、いくつかの方法があります。
まず、お父さんや家族、友人、専門家など、信頼できる人にサポートを求めることが大切です。周囲の協力を得ることで、育児の負担を軽減し、精神的な余裕を持つことができます。また、十分な睡眠やリラックスの時間を確保し、適度に休息を取ることも重要です。心身を休めることで、育児に対するエネルギーを保つことができます。
さらに、育児コミュニティに参加し、同じ境遇の人々と情報や気持ちを共有することは、孤独感を軽減し、共感や安心感を得る助けとなります。
最後に、必要に応じてカウンセリングや医療機関などの専門家の支援を受けることも検討しましょう。専門家に相談することで、適切なアドバイスやサポートを受けることができ、より良い解決策が見つかるかもしれません。
これらの方法を取り入れることで、お母さん自身の心の健康を保ち、赤ちゃんにとっても安心できる環境を整えることができます。赤ちゃんのストレス軽減は、家庭全体の安定にもつながる大切なテーマです。
赤ちゃんの健康を支えるために食物繊維が大切
赤ちゃんの健やかな成長には、毎日の食事が大きな役割を果たします。その中でも「食物繊維」は重要な栄養素です。
腸内環境を整え、便秘の予防や免疫力の向上、さらには血糖値の安定にも役立つ食物繊維は、赤ちゃんの健康を支える鍵となります。
今回は、食物繊維の役割や赤ちゃんの月齢に合わせた効果的な取り入れ方についてご紹介します。
そもそも食物繊維って何?
そもそも食物繊維とは何でしょう。食物繊維は、ヒトの消化酵素では消化できない野菜や果物、穀物などに含まれる成分の総称です。
体内でエネルギー源にはならず、胃や腸を通過する際に消化・吸収されません。水溶性と不溶性の2種類があり、水溶性食物繊維は、水に溶けるとゼリー状になり、胃腸内を緩やかに移動します。
一方、不溶性食物繊維は、胃や腸で水分を吸収してふくらみ、便のかさを増やします。
食物繊維が赤ちゃんにもたらす効果
食物繊維は、腸内の善玉菌を増やし、腸内環境を整える働きがあります。その結果、便通がスムーズになり、便秘を防ぐことができます。さらに、腸は免疫細胞が多く集まる場所でもあるため、腸内環境が良好であれば、免疫力も向上します。これにより、病気にかかりにくい身体づくりが期待できるのです。
食物繊維は血糖値の急激な上昇を防ぐ役割も持っています。一方、乳幼児のインスリン分泌能力は未発達であり、血糖値の上昇に対して十分な量のインスリンを分泌できないため、糖質/インスリン比やインスリン効果値が成人に比べて大きく,血糖変動も激しい傾向があります。(出典:「小児糖尿病診療の将来を見据えたアプローチ」/ 内科 Volume 133, Issue 5, 1180 - 1184 (2024))食物繊維がそうした血糖値の変動を穏やかにする可能性があります。
また、便秘になりやすい赤ちゃんにとって、腸の働きを活発にする食物繊維は快適な毎日をサポートする心強い味方です。
食物繊維を含む食品とその与え方
赤ちゃんに食物繊維を取り入れる際は、月齢によって決められた目安量を参考に、発育状況に合わせた工夫が必要です。以下は、比較的食物繊維が多く含まれる食材の具体例と調理方法です。
野菜
離乳食の開始では、ほうれん草や小松菜などの葉物野菜は、柔らかく茹でて裏ごしすることで赤ちゃんでも食べやすくなります。にんじんやかぼちゃといった根菜類も、煮込んでペースト状にすることで消化に優れた形になります。
果物
バナナやりんご、梨などの果物は、加熱してやわらかくしたり、完熟したものをすりおろして与えるのがおすすめです。自然な甘みが赤ちゃんにも喜ばれるでしょう。
いも類
さつまいもやじゃがいもなどを料理に入れて与えると食事のバリエーションが広がります。
豆類
大豆やレンズ豆は栄養豊富で、よく煮て柔らかくしたものを皮を取り除き少量から取り入れることで、消化しやすくなります。
与える際の注意点
食物繊維を取り入れる際には、いくつかの注意点を守る必要があります。まず、食物繊維を過剰に摂取すると、お腹が張ったり、おならが増えたりすることがあるため、適量を心がけましょう。また、新しい食品を試す際には少量から始め、アレルギー反応が出ないか赤ちゃんの様子を観察することが大切です。
さらに、赤ちゃんの消化機能は未熟なため、食物繊維を含む食品は柔らかく調理し、飲み込みやすい形状にすることが求められます。特に月齢が低い場合は、ペースト状にするなどの工夫が必要です。また与える量にも注意します。
月齢別の工夫
赤ちゃんの月齢に応じて、食物繊維の取り入れ方を工夫することで、より効果的に栄養を与えることができます。
離乳食初期(5〜6カ月)
裏ごしした野菜や果物を少量ずつお粥に混ぜる方法が適しています。例えば、すりおろしたにんじんをお粥に加えると、栄養バランスが向上します。
離乳食中期(7〜8カ月)
細かく刻んだ野菜をスープに加えることで、赤ちゃんが食べやすくなります。また、ヨーグルトにすりおろした果物を混ぜると、自然な甘みが加わり、食事が楽しい時間になります。
離乳食後期(9〜11カ月)
手づかみできる野菜や芋のスティックを取り入れると、自分で食べる楽しさを育むことができます。さらに、豆類を加えることで、栄養価を高める工夫も可能です。
離乳食後期(12〜18カ月)
食べられる食品も増えてきます。食物繊維の多い芋類、野菜、果物、全粒パンなど目安量を参考に食べていきましょう。
十分な水分と適量の油も忘れずに
食物繊維を効果的に摂取するためには、十分な水分補給が欠かせません。水分は腸内で食物繊維を膨らませ、便通を促す役割を果たします。また、食物繊維はコレステロールから作られる胆汁酸を体外へ排出するのを促進する働きもあります。離乳食では良質の油であるオリーブオイルなどを適量利用し、食物繊維を含むバランスの取れた食事を提供しましょう。
まとめ
赤ちゃんの健康を支えるためには、食物繊維を適切に取り入れることが重要です。月齢や発育に合わせた工夫を凝らし、腸内環境を整えることで、免疫力の向上や便秘予防につなげることができます。ご両親が安心して進められるよう、小児科医に相談しながら食事を工夫するのも良い方法です。
赤ちゃんが生まれた後に行われるさまざま検査の内でも、ことばの発達や人とのコミュニケーション能力に必要となる聴覚の異常を早期に発見する聴力検査はその重要性ゆえに非常に注目されています。
早期発見が重要な理由
① ことばの獲得は、生後まもなくから始まるため、きこえにくさがあればことばの発達に影響が生じるため、できる限り早めの対応が必要です。
② 赤ちゃんは周囲の音やことばを聞き取ることで、ことばを理解し、しゃべることで人との関わりあいを学びますが、きこえにくさはそうした人とのコミュニケーションに影響を与えてしまいます。
③ 早めに発見することで、きこえを補うことのできる補聴器を付けたり、きこえに配慮した教育(療育といいます)を早く開始することができるため、ことばの発達や人とのコミュニケーションへの影響を最小限にすることができます。
1000人に1〜2人が先天性難聴
先天性難聴は全出生児の約1,000人に1~2人に認める比較的頻度の高い疾患です。1990年代より欧米諸国を中心に「新生児聴覚スクリーニング」(NHS:newborn hearing screening)が導入され、日本でも2001年から導入され、現在ではお産を取り扱う施設の98%以上で実施可能となっています。厚生労働省の報告によると2019年時点での普及率は全国で91%になっています。2014年までの産婦人科診療ガイドラインでは推奨度がC(実施が考慮される)でしたが、2017年に改変されたものでは、推奨度がB(実施が勧められる)に引き上げられました。
また、ウイルスによる胎内感染で最も頻度が高いサイトメガロウイルス(CMV)というウイルスの感染が先天性難聴の原因となる可能性があります。このウイルスによる先天性の感染は新生児300人に1人ほど報告されています。NHSでもし片耳でも要精査と言われた場合には生後21日目以内の尿検査で先天性CMV感染かどうかが判断できるため、なるべく早期にこれらの検査ができる病院への受診が必要となります。
NHSには2つの検査方法があります
OAE(耳音響放射)
耳に小さなプローブ(イヤホン)を挿入し、特定の音を送ります。内耳が正常であれば、内耳から音が反射され、それを検出します。
自動ABR(聴性脳幹反応)
頭や耳の周囲に電極を装着し、音を聞かせた際の脳の反応を測定します。赤ちゃんが眠っている状態でも検査が可能です。
NHSの機器としては通常自動ABRかOAEが使用されますが、その検出できる難聴の範囲や精度などで厚生労働省は自動ABRを推奨しています。
出産後すぐのNHSが推奨されています
出産施設での新生児聴覚スクリーニング検査
多くの産院や病院では検査の内容を説明した後に実施します。産後1週間以内に実施され、費用は病院や自治体によりますが、公費助成がある自治体もあります(後述)。要精査であった場合は数回確認検査を行うことが望ましいとされており、そこでも要精査の場合には精密検査機関へ紹介となります。
精密検査機関での検査
NHSで要精査となっても難聴と決まったわけではありません。スクリーニング検査のため、正常であっても引っかかってしまうことはあります。おおよそ両側とも要精査の場合には5人に3人が両側難聴、片側要精査の場合には半分が片側難聴、12人に1人くらいの割合で両側難聴が見つかります。
自治体による費用負担や助成もある
● NHSの検査費用は2,000円から10,000円程度で、出産費用に含まれている場合もあります。自治体によっては無料または助成が受けられますが、公費に関しては全額負担とまではなってないのが現状です。
● 専門機関での精密検査は健康保険の適用があり、3割負担で受けることができます(一般的に赤ちゃんは乳幼児医療助成制度があるため負担はもっと少ないです)
きこえの悪さを見逃さないためのポイント
NHSの実施数は増加していますが、まだすべての分娩取り扱い医療機関で実施されているわけではなく、助産院や自宅分娩などのケースもあり、NHSの精査・療育へのルートから外れてしまった場合や生まれた時には正常であったにもかかわらず難聴が進行するケースもあります。
仮にそうしたケースでも、赤ちゃんの聴力の発達異常を見逃さないために気を付けるポイントも付け加えます。
● 赤ちゃんの行動に注意:音が鳴る方向を向くかどうかを確認しましょう。
● 名前を呼ぶと反応するか:反応が鈍い場合、聴覚の問題の可能性があります。
● おもちゃの音に反応するか:ガラガラや鈴などのおもちゃに関心を持つかどうかを観察します。
もし、赤ちゃんが音に反応しない、呼びかけに振り向かないといった行動が見られた場合、早めに耳鼻咽喉科や保健センターに相談することをおすすめします。
気をつけたい乳児・幼児・小児の「二次性頭痛」とは?痛み止め薬を飲む前に専門医による診察を!
子どもたちが何かの拍子に発する「頭が痛い」といった一言はとても気になるものですが、どう対応していいものか迷ってしまう言葉でもあります。大人の頭痛はよく聞きますし、自分でも体験することですが、子どもはどの程度頭痛を体験しているのでしょうか?
ある調査によると70%以上の子どもが頭痛の体験があるとされています。原因はさまざまですが、子ども(乳児、幼児、小児)の頭痛について取り上げたいと思います。
重篤な疾患が隠れている可能性のある二次性頭痛
初めにみなさんにお伝えしたいことは、「頭が痛い」という子どもの何気ない一言の中に別の病気が隠れていないかということです。頭痛には、一次性頭痛と二次性頭痛の2種類があります。一次性頭痛は、明確な病気やケガが原因ではなく、頭痛そのものが病気というものです。二次性頭痛は、くも膜下出血や頭部のケガなど、何らかの病気やケガが原因で起こる頭痛です。二次性頭痛には生命の危険がある病気も含まれるため、注意深い診察が必要になります。
一次性頭痛の代表格は片頭痛や緊張型頭痛などです。二次性頭痛については、「国際頭痛分類」に記載されていますが、次の8種類に分かれます(国際頭痛分類引より)。その中で子供の頭痛の原因として多い、注意したいものを①~④としました。
① 感染症(髄膜炎、脳炎、敗血症など)による頭痛
② 頭頸部外傷・傷害(頭部の打撲、むち打症など)による頭痛
③ 非血管性頭蓋内疾患(てんかん、低髄圧症、脳腫瘍など)による頭痛
④ 眼・耳・鼻・歯・口などの障害による頭痛や顔面痛
その他、大人に多い病気、二次性頭痛は以下の⑤~⑧です。
⑤ 頭頸部血管障害(クモ膜下出血、脳梗塞など)による頭痛
⑥ 物質(医薬品、一酸化炭素中毒、アルコール離脱など)による頭痛
⑦ ホメオスターシス障害(睡眠時無呼吸、高山病、潜水病など)による頭痛
⑧ 精神疾患(うつ病、心身症など)による頭痛
これだけは意識しておきたい4つの危険な二次性頭痛
では、子どもの頭痛で注意した方が良い①〜④の二次性頭痛の原因を順番に説明していきましょう。
① 感染症(髄膜炎、脳炎、敗血症など)による頭痛
感染症は、二次性頭痛で最も多い頭痛の原因です。みなさんも経験があると思いますが、高熱があるだけで頭痛を起こしますから、まず初めに子どもに発熱があるかどうかを確かめてください。また地域や職場、保育園などの生活環境の周囲で、インフルエンザなどの感染症が流行っていないかどうかも重要な判断材料になります。夏季でしたら、プールなどで感染しやすいプール熱(咽頭炎=のどの痛み、結膜炎=目の充血、39℃前後の発熱が、数日から1週間続く症状続くとされ、アデノウィルスが原因と考えられる)などにも注意が必要です。
感染症が進行して、髄膜炎、脳炎を起こす場合もあります。発熱と頭痛が改善しないとき、意識がもうろうとしている、けいれんがある場合は、専門医療機関を受診してください。
② 頭頸部外傷・傷害(頭部の打撲、むち打症など)による頭痛
外傷は親の知らないところで受傷している可能性があります。たとえば、子どもが公園に行ったとき、実は鉄棒から転落していることも……。「頭が痛い」と子どもが言ったときに、「いつから?」「どのようなときに?」「どの程度?」といったことを聞いてあげてください。
また乳児や幼児の場合は、自分で状況をうまく説明できませんから、可能な限り受傷したときの状況、観察をメモなどにとっておき、医師に説明できるようにしておくことも大事です。
③ 非血管性頭蓋内疾患(てんかん、低髄圧症、脳腫瘍など)による頭痛
てんかんそのものは、頭痛を起こすことは少ないのですが、てんかん発作後に頭痛が残る場合があります。また非常に稀ですが、脳腫瘍を起こしている場合もあります。小児に多いとされている脳腫瘍は、神経膠腫、胚細胞腫瘍、髄芽腫、頭蓋咽頭腫などです。いずれにしても、強い頭痛が続く場合は脳MRIなどによる画像検査が必要になることもありますので医療機関を受診してください。
④ 眼・耳・鼻・歯・口などの障害による頭痛や顔面痛
子どもは正確に自分の痛いところを説明できません。よって、眼・耳・鼻・歯・口などに異常がある場合にも「頭が痛い」と言うことがよくあります。
この中に含まれる病気は、たくさんの種類がありますが、子どもに比較的多い頭痛は、歯痛、口内炎、中耳炎、副鼻腔炎などが上げられます。また、眼の病気はメガネの矯正や屈折がうまく合わずに頭痛を起こすこともよくあります。
子どもの頭痛には、希ですが「二次性頭痛」の可能性があります。これら二次性の頭痛は、病気によって治療法が異なるので、子どもの様子を見て「おかしいな」と思ったら医療機関でご相談ください。
“お口ポカン”を放っておくとこんな問題が起きてしまう!?
日本の子どもの約3割がお口ポカン
子さんがよく口を開いたままの状態でテレビを見たりゲームしていませんか?こんな様子をよく見かけたらちょっと注意が必要です。
「お口ポカン」と呼ばれるこの状態は「口唇閉鎖不全」(こうしんへいさふぜん)とよばれ、口腔機能発達不全症の一種です。口周りの筋肉が十分に発達していないと、常に口を閉じることができずにポカン口を引き起こします。ポカン口でいるとさらに筋肉の発達が遅れ、口唇閉鎖不全が悪化するという悪循環に陥ってしまうこともあります。
また、アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎などによって慢性的に鼻が詰まっていると、口呼吸となり、舌の位置が低位になる原因になります。舌が低位になると、上あごに舌圧がかからないため、上あごの側方への発達が不十分となり、顎が狭くなることがあります。
新潟大学と他の研究機関が行った日本での初の全国規模の疫学調査により、「お口ポカン」(口唇閉鎖不全)の有病率についてのデータが報告されています(全国66の小児歯科医院で定期的に受診している3歳から12歳までの子ども3399人を対象に実施)。
研究の結果、日本の子どもたちの実に30.7%が日常的に「お口ポカン」の状態を示していることがわかりました。この状態は年齢とともに増加し、地域による差は認められませんでした。
Prevalence of an incompetent lip seal during growth periods throughout Japan: a large-scale, survey-based, cross-sectional study
お口ポカンにはこれだけの問題が生じる可能性
お口ポカンはいったいどんな問題を引き起こすのでしょう。指摘されている問題をまとめてみます。
発音の問題
口唇閉鎖不全により、特に爆発音(「ぱ」、「ば」、「ま」などの音)を正しく発音するのが困難になります。これは唇が完全に閉じないために必要な気圧が確保できないために生じる構音障害です。
食べ物や飲み物の漏れ
唇が完全に閉じないため、食べ物や飲み物が口の外に漏れることがあります。これは特に流動性の高いもの(スープや飲料など)を摂取する際に生じます。
唾液の漏れ
口を閉じることが困難な場合、よだれが出やすくなります。
口腔衛生の問題
口唇閉鎖不全により口腔内が乾燥すると、細菌が繁殖しやすく、むし歯や歯周病のリスクを高めます。また、口内炎や他の歯肉の病気の発生率が高くなる可能性もあります。
睡眠中の問題
口唇閉鎖不全により睡眠中に口が開いた状態でいると口呼吸となり、睡眠の質の低下を招きます。さらには、無呼吸症候群などの呼吸関連のリスクが高まる可能性があります。
顔の筋肉への影響
口唇閉鎖不全症は顔の筋肉の機能不全やアンバランスをもたらします。これにより、顔の表情が不自然になったり、他の口腔機能(咀嚼や嚥下など)に困難さや機能不全を引き起こすことがあります。
お口ポカンはこのように日常生活に大きな影響が考えられるため、気が付いたらなるべく早く耳鼻科や歯科などに相談した方がいいでしょう。継続的な管理と日常的なケアによって症状の改善につながることがあります。
お口ポカンの改善策のおすすめは鼻水吸引器
お口ポカンの状態では、どうしても口呼吸をすることが多く、むし歯、歯周病、風邪、インフルエンザ、アレルギー、歯列不正、睡眠時無呼吸症候群など、様々な悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。お口ポカンの原因、状態やそのレベルによってもアプローチはさまざまですが、いくつかの対処方法を紹介します。
<アデノイド肥大の場合>
鼻の奥にあるリンパ組織のアデノイド肥大などで鼻閉をおこしているのであれば、薬物治療や手術の治療など、耳鼻科による治療が必要な場合があります。
<口腔筋機能訓練も可能>
歯列を取り巻く口腔周囲筋の機能を改善する口腔筋機能訓練(MFT)などを推奨している歯科医療機関もあります。
<鼻水対策での改善>
お口ポカンの大きな原因の一つとして考えられる鼻水や鼻づまりにはいくつかの有効なケア方法があります。アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎などが原因でお口ポカンとなっている場合は、医療機関を受診しアレルギー症状の薬物治療が必要です。また、薬局や処方される点鼻薬や鼻スプレーも有効です。
しかし、あまりお薬を頻繁に使いたくない場合の日常的なケアにはご自宅での鼻水吸引が有効とする耳鼻科医や歯科医も少なくありません。家庭での細かなケアで、鼻水、鼻づまりの状態を改善し、お口ポカンを少しでも良くすることが可能です。
鼻水吸引器は、赤ちゃんやお子さまの鼻詰まりを解消するために直接鼻の中の粘液を吸引する道具です。鼻づまりによる口呼吸の悪影響を防ぐことで、お口ポカンだけではなく、風邪の悪化を防ぐことができます。さらには鼻水や鼻づまりの初期段階で症状を改善することで、中耳炎や副鼻腔炎などの予防にもつながります。
特に、小さいお子さまは自分で鼻水がかめません。鼻水には細菌やウイルス、花粉、ハウスダストなどの病気の素が含まれているため、鼻水吸引器を使って体外に追い出すことで治りを早めることができます。使用する際はお子さまの鼻に傷をつけないように注意しながら優しく吸引してあげてください。
手動、電動、据え置きタイプ、ハンディータイプなどバラエティーに富んでいます。それぞれ長所、短所がありますので、一番使いやすいと感じた使いやすいものを選べばよいでしょう。
保険収載となった”お口ポカン”
お子さまのお口の健康な発達はとても大切なことです。最初に紹介した新潟大学などの研究によって、お口ポカンの病態解析や疫学的な実態も解明されてきています。こうしたエビデンスを受けて“お口ポカン”に関する検査や治療に関して保険収載が行われています。
口腔機能発達不全症
咀嚼や嚥下、構音機能が十分に発達していない15歳未満の小児を対象に、2018年から歯科保険に収載されています。2022年には保険適応の対象年齢が15歳未満から18歳未満と拡大されました。
口唇閉鎖力検査
2020年4月の診療報酬改定により、「小児口腔機能管理料」「小児口唇閉鎖力検査」が新設され健康保険の対象となりました。
まとめ
お口の健康は、「食べる」、「話す」、「呼吸する」という、生きていくために重要な機能を維持するためにとても大切なテーマです。日常の何気ないお子さまの行動や表情、様子などから早めに体のサインを読み取ることができれば、お子さまの健やかな成長を助けてあげることができますので、ぜひ本記事を参考にしてみてください。