妊娠中の運動
妊娠中は動作も緩慢になり、運動不足になりがちです。周囲からも安静を促されることが多いため、動く機会が減ってしまうこともあるようです。しかし健康な母体づくりのためには、適度な運動を取り入れることはとても大切です。妊娠中の運動してい良い時期や、適切な運動内容について確認しておきましょう。
妊娠初期はとてもデリケートな時期ですが、運動をやめる必要があるわけではありません。かかりつけ産婦人科医とよく相談しながら、妊娠前と変わらない運動をする分には問題ありません。
一方、妊娠して新たに始めるスポーツ等は控えましょう。慣れない動作などで、怪我や転倒などのリスクが伴うためです。妊娠前に運動の習慣がなかった方は、散歩など軽い運動に取り組むと良いでしょう。
安定期に入ると体重のコントロールのためにも、妊婦の運動は推奨されています。ただ、激しい運動は妊娠期間中を通じて厳禁。ジャンプが伴う運動や負荷をかけるような運動、長時間立ち通しになる運動、おなかを圧迫するような運動も避けましょう。自転車については、移動手段の都合などでどうしても利用する必要がある場合は、妊娠初期~中期のはじめまでとし、おなかが出てきたら利用を止めるようにしましょう。特に妊娠後期は大きなお腹でバランスがとりにくくなり、転倒のリスクが高くなります。安全のためにも乗らないようにしてください。運動としてのエアロバイクは、無理のない範囲であれば問題ありません。
妊娠期に適したスポーツは安全な有酸素運動で、全身運動になるもの、そして楽しく長続きするものがおすすめです。代表的なものとしては、水泳やエアロビクス、ウォーキングなどです。しかしこれらの運動でも、無酸素運動の状態とならないように。例えば水泳のタイムを競ったりするなど、瞬間的に強い力が必要になるやり方は禁物です。またお腹の張りなど、なにか異変を感じたらすぐに運動を中断して安静に過ごすようにしましょう。
日本臨床スポーツ医学会産婦人科部会の提言する「妊婦スポーツの安全基準(2019)」を参考に妊娠期の運動の際の注意点を挙げておきます。下記の事項に注意しながら、健康な母体づくりをしていきましょう。
1. 母児の条件
1)現在の妊娠が正常で、かつ既往の妊娠に早産や反復する流産がないこと。
2)単胎妊娠で胎児の発育に異常が認められないこと。
3)妊娠成立後にスポーツを開始する場合は、原則として妊娠12週以降で、妊娠経過に異常がないこと。
4)スポーツの終了時期は、十分なメディカルチェックのもとで特別な異常が認められない場合には、特に制限しない。
2. 環 境
1)真夏の炎天下に戸外で行うものは避ける。
2)陸上のスポーツは、平坦な場所で行うことが望ましい。
3.スポーツ種目
1)有酸索運動、かつ全身運動で楽しく長続きするものであることが望ましい。
2)妊娠前から行っているスポーツについては、基本的には中止する必要はないが、運動強度は制限する必要がある。
3)競技性の高いもの、腹部に圧迫が加わるもの、瞬発性のもの、転倒の危険があるもの、相手と接触したりするものは避ける。
4)妊娠16週以降では、仰臥位になるような運動は避ける。
4.メディカルチェック
1)妊婦スポーツ教室を実施する場合
a.医療施設が併設されているか、あるいは緊密な連携体制が確立していること。
b.運動開始前後に母体血圧、心拍数、体温、子宮収縮の有無、胎児心拍数測定などのメディカルチェックが実施できること。
2)個人でスポーツを行う場合
a.スポーツを行っていることを産科主治医に伝えること。
b.スポーツ前後に心拍数を測定し,スポーツ終了後には子宮収縮や胎動に注意すること。
c.体調に十分に注意し、無理をしないこと。
5.運動強度
1)心拍数で150 bpm以下,自覚的運動強度としては「ややきつい」以下が望ましい。
(資料編日本臨床スポーツ医学会誌:Vol. 13 Suppl., 2005.277)
2)連続運動を行う場合には,自覚的運動強度としては「やや楽である」以下とする。
6.実施時間
1)午前10時から午後2時の間が望ましい。
2)週2~3回で、1回の運動時間は60分以内とする。
7.その他
1)高血圧症、糖尿病、肥満症などの妊娠中の合併症の予防と治療を目的とする運動療法は、専門医と相談の上で、十分に注意して実施すること。